岡田斗司夫 『評価経済社会』 感想
2011年7月に購入して長らく積読状態だった単行本版を先日ようやく読んだ。
- 作者:岡田斗司夫 FREEex
- 発売日: 2013/07/11
- メディア: Kindle版
本書では主題が2つ入り混じっているように見え、まとまりがないように感じてしまった。 (旧書『ぼくたちの洗脳社会』との違いは後者が追加されているところだと思う)
- 僕らの主体性というのは知らないうちにコントロールされている。洗脳性に気付こう。
- 僕らの生きている社会はこんなパラダイムの変遷を経て変化・成立してきた。
- 有名人と繋がることに高揚感を覚えたり、「あの人と一緒に仕事したことあるんだ、私」と言いたい人たちは多い。
- イメージ戦略により人が集まりビジネスチャンスが生まれる
氏が 「評価経済社会」 という概念提唱を通じて訴えたいことがいまいちうまく汲み取れなかったので、とりあえずこういう風に解釈しといた。
「情報弱者の欲求を利用したビジネススキームを構築し、一般人とは違う特別な集団として幸せに生きる方法を教えてあげよう」
この提言を以って生み出されたのがFREEexであり、2020年の答え合わせとして筆頭にあがるのがキングコングの西野亮廣さんのサロン、ということになるのだろう。
(FREEex: 社員が社長に賃金を支払って「一緒に働く権利」を買っている。お金を払うことで「すごい人」と一緒に仕事ができて、「あの人と仕事をした」という実績が作れる仕組みの組織)
私の中ではそれら - 評価経済社会というシステムをもってして生み出されたもの - が、様々な組織に適用するには普遍性が低いように見えるし、実社会への貢献性もあまりないように感じてしまっているので、文章を読んでいても、いまいち内容が頭に入ってこなかった。
以下、気になったところ。
- 図や表の挿入が少なく、あったとしても作りがとても雑な印象がある。参考文献リストもない (他の著書もそんな感じ)。
- 結論ありきで陳述が続いているように感じた。「んん?なんでそういう帰結になるんだ?Aでなくてはならない理由は?Bではない理由は?」と、引っかかるところが多すぎて読み進めるのに苦労した。
- 「科学は死んだ」と雑に述べているが、正確には「80年代に描かれた未来予想図にあるようなハイテク未来の科学技術に抱いたワクワクは幻想だった」というのが氏の言いたいことだったのでは...?観察・実験や仮説・検証、統計など科学的手法は死んでないし、この先も死ぬことはなかろう。ふんだんに誤謬を持たせた言い方をしているところに岡田節が炸裂している。
- オタク文化について書かれた氏の他著はもっと読みやすいし、BSマンガ夜話での話はとても面白かったのに、専門外のことをそれなりの信憑性があるように見せかけて書こうと頑張るとこうなってしまうのか、というガッカリがあった。
とはいえ、情報商材よろしくやっている有料コンテンツやオンラインサロンによって幸せになった人も少なからずいるであろうし、そういう方面が好きな人は読むといいかも知れない。
以下、補足情報。
本書は1995年発行の『ぼくたちの洗脳社会』のリメイクである。 blog.livedoor.jp
- 1995年はWindows95が発売された年でインターネットが本格普及する前だ。
- 当時のテレビ番組はこんな感じ→ 1995年のテレビ (日本) - Wikipedia (参考: 1995年の日本 - Wikipedia)
- ちなみにBSマンガ夜話は1996-2009年放送
旧書では「評価経済」という用語は登場しておらず、「『洗脳活動』がより大きく人々の価値観を束ねていく」ということを言いたいように見える。
旧書の主眼と思しき部分を次に引用する。
○洗脳社会での「個人の振る舞い」には特徴が三つある。
- 他人を、その価値観で判断するということ。
- 価値観を共有する者同士がグループを形成するということ。
- 個人の中で複数の価値観をコーディネートするということ。
そう言えば岡田氏は2007年に山田礼司のインタビューマンガ『絶望に効くクスリ』に出ていて「プチクリ」という概念を紹介していた。
絶望に効くクスリ vol.9―One on one 革命的対談漫画 (ヤングサンデーコミックススペシャル)
- 作者:山田 玲司
- 発売日: 2007/02/05
- メディア: コミック
氏の中ではプチクリが評価経済社会という思想のルーツにあるんじゃないだろうか。
その他・参考: