MASTER キートンで、キートンがフェンシングの教官ウルフからこんなセリフを言われてた。
「キートン、君の戦い方は実にユニークだ!だがユニークすぎる!!プロフェッサーにはなれないな。戦闘のプロとしては甘すぎる!せいぜい達人(マスター)止まりだ」
中学生ぐらいの時に読んで、この意味がよく分からんかった。ユニークな戦い方ができるほどの達人やったら実力はプロフェッサーより上ちゃうん?そんならプロフェッサーにもなれるんちゃうん?て。
コミックのタイトルにこじつけた無理矢理な、それっぽい雰囲気だけを匂わせたシーケンスだと解釈してた。
今にして思えば、これは「教官として必要な資質とは、例えば定石のように技に再現性を持たせられるよう説明・指導し、最初から戦闘力が秀でていない者も含めた誰もがある程度高度な戦い方ができるようにするのことであり、予測不可能・変幻自在な戦い方で戦い抜く能力は個人としては優れた力だが、集団戦術の求められる戦場に送るための兵士育成には普遍性がなさすぎる」と言うことだったのだろうか。
ウルフが言った「達人」とは「集団を率いうるものではなく、個人としてのみ難局を打破する力を持つ者」という評価だったのではないか。
でもなー、第1巻ではオックス・ベイヤーがキートンに対して
「思い出したよ。あんたとはブレコンビーコンズ国立公園で会ったことがある。俺が入隊試験を受けた、SASのサバイバル技術の……教官(マスター)だ!!」
と言ってるんだよなあ。
教官言われてるやん。
それにフォークランド紛争では軍曹の職位で王子救出作戦に活躍したんじゃなかったっけ。それって部下を持って率いた、ってことよね?設定とプロットが割と場当たり的に作られたか?
うろ覚え杉田。英国政府から王族救出の特命を受けたのは湾岸戦争。軍曹ではなく曹長で、それは名誉除隊時の職級だった。moudameda. (ref: MASTERキートン - Wikipedia)
まー、年季の入った老練の教官からすれば、キートンの教官力はまだまだやで、ということやったんかね。
ちなみにウルフという人物は、至近距離なら拳銃を持った相手に確信を持って勝つことのできるナイフの達人です。この人ね。
MASTERキートン 完全版 コミック 全12巻完結セット (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)
- 作者:浦沢 直樹
- 発売日: 2012/06/29
- メディア: コミック
あー、でもたしかに、例えばジョン・フルシアンテや長岡亮介が講師として長く人を教える立場に据えられるかというと、そりゃープレイヤーの方が個性が発揮されるよね、ってなるわ。
大学教授でも研究成績がいい人と教えるのが上手い人は必ずしも同じじゃない。
とは言え、キートンは有事の際は訓練教官として復隊を請われるぐらいの人柄には思えるけど。
原作者表記されている勝鹿北星は最初の数巻しかプロットに関わってないらしいが、個人的に面白いと思えるのはその最初の数巻だけなんだよなあ。本作を本作たらしめた重要パートだと思う。10巻前後から最終巻までは、なんだか、それまでとはトーンが違うんだよなあ。作者の教養を匂わせるセリフや仕掛けもガラリと減る。
乱暴に言うと、原作者が付かない浦沢作品と同じ匂い = 浦沢氏の得意な6, 7割の力で描いた「面白そうな雰囲気演出」優先の、白々しい画の匂いがする。
(セーブした力でヒット作を生み出す鼻持ちならない様は岡田斗司夫氏もBSマンガ夜話で揶揄していた)
原作がつかない浦沢作品で白々しいと思うのが、登場人物が恐怖の表情を浮かべるシーンで、話の流れや心理的な攻防の厚みに比べて、恐怖の表情が大袈裟すぎるのだ。悪く言えば、子供騙しであり、氏の卓越したマーケティング能力により演出された大衆受けしそうな煽ったカメラワークが見える (菅野よう子バリの迎合力の強さ)。
問題なのは、なにより描いてる作者自身がその場面に対して恐怖を感じてなさそうなところ。「こんぐらい出しときゃ、ライトな読者層は怖がってくれるだろう」と舐めプしてそうなところが透けて見えると言うか、実際はどうだか知りようもないが、その疑惑だけで浅ましさを感じてしまい、どうしても登場人物の心理に対して距離を感じてしまう。
人物の心理はコマに描かれていることが全てであり、奥行きがない。設定が必要十分すぎるのか?
ところで、なぜ本作の白眉の部分が、長崎尚志ではなく勝鹿北星がもたらしたと思っているかと言うと、勝鹿北星がラデック鯨井名義で原作提供しているSEEDの1-3巻を読んだときに、MASTER キートン 1-3巻を読んだ時と似たような空気感を覚えたから。SEEDは出版社が集英社であり、長崎氏は小学館のスタッフであったことから長崎氏は関わっていないと考える。
そしてさらに蛇足を加えると、SEEDも4巻以降はそれまでのワクワクが失速して行った。あれか。「企画会議の時に思ってたほど、うんちくネタは溜まってませんでした」なのか?最初は高精度にヘッドショットを繰り出せるが、3, 4人倒すとその能力が消えるタイプの念能力か?
- 作者:ラデック・鯨井
- メディア: コミック